【第2話】突きつけられた「投球禁止」。絶望の淵で知った、肘以外の意外な真犯人

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「……しばらくの間、ボールを投げるのはやめましょう。投球禁止です」

先生の口から出たその言葉は、静かでしたが、中学2年生のA君にとっては、どんな怒鳴り声よりも重く、鋭く心に突き刺さりました。

隣に座るお母さんの顔が、さっと青ざめるのが視界に入ります。 A君は、膝の上で握りしめた拳を震わせ、俯いたまま絞り出すような声で聞き返しました。

「先生……来月の大会、どうしても投げなきゃいけないんです。痛み止めの注射とか、何か方法はありませんか?」

その問いに、私は静かに首を振りました。 「今はその場しのぎをする時じゃないんだ。無理をして投げ続ければ、将来、大好きな野球そのものができなくなる可能性がある。今は『止まる勇気』が必要なんだよ」


エコー検査が映し出した「真実」

当院を受診したA君の右肘を、最新のエコー(超音波画像診断装置)で慎重に観察しました。

画面に映し出されたのは、内側側副靭帯が腫れ上がり、骨の一部が引っ張られて不整(ざらつき)が出ている様子でした。「野球肘の内側型」――。これまで彼が「少しの違和感」と自分に言い聞かせて誤魔化してきた結果が、そこには残酷なほどはっきりと写し出されていました。

「靭帯が悲鳴を上げている状態だね。このまま投げれば、骨が剥がれてしまう『剥離骨折』に繋がっていたかもしれない」

私の説明を聞きながら、A君の目からは一粒の涙がこぼれました。 これまで朝早くから夜遅くまで、誰よりも練習してきた自負があった。 エースの座を争い、チームを勝たせたい一心で走り続けてきた。 その努力が、一瞬にして足止めを食らった絶望感。

診察室には、重苦しい沈黙が流れました。

肘は「被害者」であり、真犯人は別にいる

しかし、私はそこで話を終わらせませんでした。 絶望しているA君の肩を叩き、私はこう続けました。

「A君、一つだけ約束してほしい。この『投球禁止』の期間は、ただ休むだけの時間じゃない。君の肘を壊した『真犯人』を見つけ出し、それを倒すための修行期間にするんだ。そうすれば、復帰した時には前よりすごいピッチャーになれる」

「真犯人……? 僕が投げすぎたからじゃないんですか?」

不思議そうに顔を上げたA君を、今度は検査室のベッドへ案内しました。 ここで私は、肘そのものではなく、彼の「全身の動き」をチェックし始めます。

実は、野球肘になる選手の多くは、肘そのものに問題があるわけではありません。 肘はあくまで、全身の連動の中で「最後に負担を押し付けられた被害者」に過ぎないのです。

暴かれた「意外な真犯人」の正体

全身の可動域を細かくチェックしていくと、A君の体に潜んでいた「真犯人」たちが次々と姿を現しました。

真犯人①:ガチガチに固まった「股関節」

A君は股関節の柔軟性が著しく低下していました。特に軸足(右足)を内側に捻る動きが硬い。これでは、投球動作で本来使うべき「下半身の粘り」が使えません。下半身が使えない分、上半身、特に肘をしならせて投げざるを得なくなっていたのです。

真犯人②:動かない「肩甲骨」と「胸郭」

投球は全身の連動です。本来、背中の肩甲骨や胸の骨(胸郭)がしなやかに動くことで、肘への負担を分散させます。しかし、A君の背中はまるで鉄板のように固まっていました。この「硬い背中」のせいで、腕を振るたびにすべての衝撃がダイレクトに肘へ集中していました。

真犯人③:機能していない「インナーマッスル」

肩や体幹の奥深くにあるインナーマッスルがうまく働いておらず、アウターマッスル(表面の大きな筋肉)だけで力任せに投げていたことも判明しました。

「見てごらん。肘が痛くなったのは、君が一生懸命投げたからじゃない。この股関節や背中の硬さを、肘がたった一人でカバーし続けてくれた結果なんだよ」

私の言葉に、A君の表情が少しずつ変わっていきました。 「……じゃあ、ここを柔らかくして使えるようになれば、また投げられるようになりますか?」

「ああ。それどころか、今まで使えていなかった下半身のパワーが指先に伝わるようになる。球速も、キレも、今までの比じゃなくなるはずだ」

絶望を「希望」に変える一歩

「投球禁止」という言葉は、野球少年からすれば死刑宣告に近いかもしれません。 しかし、原因がわからずに痛みと戦い続けることほど、苦しいことはありません。

「真犯人」が見つかった今、A君の目標は「痛みに耐えること」から「自分の体を作り変えること」へと変わりました。

その日から、A君の「投げない練習」が始まりました。 地味で、痛くて、決して華やかではないリハビリ。 でも、その目はもう絶望には染まっていませんでした。

「先生、僕、絶対に前より強くなってマウンドに戻ります」

そう言って当院を後にするA君の背中を見送りながら、私は確信しました。 彼は、この壁を乗り越えて、真のエースへと成長していくはずだと。


次回のブログ:【第3話】投げられない時間は「退化」じゃない。地味なリハビリが最強の武器に変わる。

グラウンドの隅で声を出す日々。周りがどんどん上達していく焦りの中で、A君が取り組んだ驚きのトレーニングとは?「怪我の功名」が形になり始める、リハビリ編をお届けします。


【当院よりお知らせ】

お子さんが「肘が痛い」と言い出したとき、それはチャンスかもしれません。 ただ休ませるだけでなく、**「なぜ痛くなったのか」**という根本的な原因を解決しませんか?

当院では、プロのトレーナー視点から全身を評価し、再発しない体作りをサポートします。 野球肘、肩の痛みでお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。

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